報恩社公式サイト③「地涌」精選

地涌選集

筆者 / 不破 優 

編者 / 北林芳典

十章 父子ふし暗証あんしょう

地涌オリジナル風ロゴ

第347号

発行日:1991年12月13日
発行者:日蓮正宗自由通信同盟
創刊日:1991年1月1日

阿部日開を選出した管長選挙は大変な腐敗選挙であった
脅迫、供応、利益誘導、投票妨害、特叙などがおこなわれた
 〈法難シリーズ・第36回〉

総本山第五十九世日亨上人が、宗内に公に辞意を明らかにされたのは、昭和二年十一月の御会式のときだったようだ。このとき日蓮正宗は、蓮葉庵系の阿部法運(のちの第六十世日開上人)擁立派と、富士見庵系の有元廣賀擁立派に二分されていた。

この御会式の十一月九日の朝、日亨上人の退座の意思を聞いて驚いた有元派のある人物は、日亨上人に対し、「猊下がいま御辞職になっては、折角安定した宗門が再び修羅の巷となります。留任をお願いします」と述べたが、日亨上人の辞意はあくまで固く、「乱れるのは承知である。宗門が二分したら終に落ち着くところに落ち着くのである。君達もおおいにやり甲斐のあるわけじゃ、大いにやれ」(有元派「声明書」一部抜粋)と答えられたという。

このとき、日亨上人は阿部派に宗務行政の実権を握られ、完全に浮かされた状態にあった。日亨上人の命じられた宗門改革案は、宗務院の職員すらソッポを向き検討もされないようなありさまだった。

日亨上人は、もともと登座する意思はなかったのだが、大正十四年十一月の日柱上人に対するクーデターに始まる宗内の大混乱を収拾するために、宗内多数派の推挙(正確には工作に乗せられたと表現したほうがよいかもしれない)を受けて登座されたものだ。

そのような経緯から登座したのに、宗務職員からも無視されている状況に、ほとほと嫌気がさし、猊座を投げ出されたようなものである。

日亨上人ご自身の退座の真意は、同上人の「告白」(昭和二年十一月二十日発表)にあるとおりである(本紙『地涌』第311号、第314号~第318号参照)。

日亨上人の辞意が表明されるや、宗内はにわかに選挙ムードとなり、阿部派と有元派の激烈な選挙戦が展開される。日亨上人登座まもなく、日柱上人より降ろされた阿部法運は能化への復級を果たしたが、阿部派は、その直後から日亨上人の孤立化、早期退座を画策しはじめた。

阿部派は、日亨上人を孤立させ退座に追い込んでいっただけに、選挙への宗内工作のスタートは早かったようだ。一方、有元派にとっては寝耳に水だった。

昭和二年には、阿部派は日亨上人にうまく根回ししたと見えて、九名の自派の者を秘密裡に、教師に特叙した。これは有元派が当時、追及したことであるが、客観的に見ても阿部派九名の特叙は、実に不自然極まりない。

有元派の主張は、本筋において正当であると思われる。阿部派の管長選挙に向けての周到な事前準備をうかがわせるものである。御会式前の十月には、阿部派はすでに選挙の事前運動をしていたようだ。病気見舞い、観光にこと寄せての訪問、お土産攻勢を始めている。

選挙の腐敗ぶりは、相当なものだったようだ。有元派が選挙後に、管長選挙における阿部派の腐敗ぶりを非難し、「声明書」(昭和三年三月十三日付)を出している。

「某寺住職の老齢を奇貨とし、夜間品川よりの使と偽はり、自動車に乗て東京に誘致した上、酒食を饗して居所を隠さしめ、酔へるに乗じて転居届を出さしめ、投票用紙を其所に送つて強て阿部師に投票せしめんと企てたが、我等は弁護士を頼み談判せしめ其の用紙を取戻しましたが、之には非常なる手数と騒ぎを演じました。又某寺住職は、途中に阿部一派の者に誘致されて某寺に連れられ、数人集まつて酒食を供し、巧に自由を拘束され、遂に阿部師に投票せしめられたのであります。又某寺老住職は、元より有元師に投票すべく仏天に盟ひましたが、彼等運動員の脅迫によりて不得止阿部師に投票したのである」

それだけに止まらない。

「法要に托して之を外出せしめ、我等との面接を不可能ならしめ。又は高等寺院に転任又は位階昇進等の好餌を喰したり。又は免職転任等等で威圧したり。止むことなき信徒の有力者を使用して強圧したり。或は偽電を打って有元師への投票を妨げたりし事実は沢山あるのであります」

この有元派の「声明書」に対し、阿部派の富田慈妙は、「弁駁書」(昭和三年十二月二十九日付)をもって反論している。

「選挙当時某々等阿部師を信じて同師に投票せしを開緘前、某に迫り恐ろしき言葉や振りで恐怖せしめた結果、阿部師へ投票せし事を知り、強いて其取消状を発せしめたりと云ふ。又東北地方の某師などは恐怖のあまり全く意にもない取消である故に、其悪辣な人々の帰るを待ち、隣室に居りて事実を知りたる人等は、某師の上に同情し直ちに其事実を列記したる届書を以て、宗務院に取消の真意にあらざる事を申出されてある」

ある僧が脅されて、阿部法運に投票したことを有元派が聞き出し、強引にその取消状を宗務院宛に送らせた。あるいは別の僧は、有元派の脅しによる恐怖から取消状を出したが、その僧が脅されていることを隣室で聞いていた者が、取消は真意でないと、これまた宗務院に届け書を提出したということである。

このような、選挙をめぐってのあからさまな抗争が、全国津々浦々でおこなわれた。阿部派、有元派ともに、脅し、利益供与、利益誘導をもって管長選挙を戦ったのだ。

この結果が、「唯授一人血脈相承」と神秘化されるのである。仏子らは歪曲された「血脈相承」を打破し、日蓮大聖人本来の「血脈相承」をはっきり認識しなければならない。真実の血脈は、純真な信仰を貫く仏子一人ひとりに、御本仏日蓮大聖人よりつながるものなのである。

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